そのドアを開けたらゾンビがいる

わかっているんだけどねぇ〜☆

死体にまたがりオナラのチカラで海を駆ける!そんな映画に感動するなんて…:『スイス・アーミー・マン』感想

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Filmarksの試写会でずっと楽しみにしていた『スイス・アーミー・マン』を一足先に観てきました。オチこそ触れませんがこのあと内容にたっぷり触れますので、ネタバレ等気になる人は映画を観終わってからお話しましょう。

映画『スイス・アーミー・マン』予告編 - YouTube

予告だけ観るとキワモノとかナンセンス映画で、設定はトンデモなく、この映画を観て爆笑するだけでなく感動までしてしまったなんて言おうものなら、好意的に取ったとしてもそういう変な映画が趣味だからじゃないの?と言われてしまうだろうし、私も多分そう思う。

でもこの映画、私の今年のナンバーワンになりました。

映画はこんな感じで始まります。

無人島に1人置き去りになった主人公ハンク(ポール・ダノ)が、もう諦めて自殺しようとした時、偶然目に入る浜辺に打ち上げた人影。大喜びで助けようと走りよるものの時既に遅く息はない死体(ダニエル・ラドクリフ)だった。やっぱり絶望だ!と改めて自殺しようとした時、ピクピク動き出す死体。その原因はどうやら身体が腐敗して肛門から出てきたガスのせいで、しかしどう見てもオナラにしか聞こえない。初めは控えめだったが次第に勢いを増すオナラ。その勢いはどんどん増していき猛烈な勢いで出続けるオナラ。そのまま海に浮かべればオナラのチカラで進みだすのでは?と死体にまたがるとジェットスキーのように大海原にむかって走り出し、これで無人島を脱出だ!と思ったら矢先になんと転覆!

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これ、オープニングタイトルが出るまでの展開なんですが、もうこの時点で何を言っているのかサッパリわからないと思います。

殴られたり奇声をあげさせたら世界一のポール・ダノが、死体役の(ハリー・ポッターシリーズ)ダニエル・ラドクリフに跨ってオナラのチカラでジェットスキーをする。言ってる意味がわかる気がしない。

転覆して溺れて気がついたら見覚えのない浜辺に打ち上げられていたハンク。無事無人島は脱出したものの、人気のない森に面した浜辺に一人(と一体)たたずむ。なんとか生き延びるべく行動を起こそうとするが、助かったキッカケの死体を置きざりにはできず、背中に担いで森の中に入っていく。

それまでも十分無人島生活に飽き飽きし、たっぷりと孤独を感じていたハンクはやっと出来た友だちのように死体に話しかけたりしながら森を進みます。 その間も死体はずーっとオナラ出続けていて、独り言とオナラの音が森に響きます。上映中笑いを押し殺すのに必死だったし、文章にしてみてもホントヒドい。 死体に話しかける孤独な男とオナラが止まらない死体。

食べ物も飲み水も無く、雨が降ったら洞窟で雨がやむのを待つハンク。空腹と喉の渇きはもうかなり限界来ていて体力的な負担も大きいので、しょうがなく死体は置いて行こうとすると、横たわってる死体の口から水が垂れているのに気が付きます。死体を座らせて恐る恐る胸のあたり押してみると、雨水などを飲んじゃった死体が水を濾過して身体に貯めていたらしく、口からその水がマーライオンばりにドバーッと吹き出します。なんと死体に濾過&水筒機能がついていた!『スイス・アーミー・マン』まさに万能グッズのスイス・アーミー・ナイフみたいな男の死体のことだった!

やっぱりストーリーがおかしい。

しかもその死体はとうとう喋りだしメニーと名乗ります。生前の記憶をすべて失ってしまった喋る死体メニー。果たして二人は一緒に故郷に帰る旅を始めます。多機能な死体を味方につけた孤独な主人公のロードムービーです。

ここまでが導入部です。これからが本番なんです。

険しい森の中、非力なハンクをさまざまな機能で支えるメニー。同時にハンクとってまたとない話し相手でもあるメニーとの関係はバディ映画のような友情を感じさせ、時にBLもののような親密感すら生まれます。

そんな夢とも妄想ともつかない現実離れした時間を映画中はそのままのカタチで受け入れて観てしまう、というのがこの映画のすごいところです。ハハーン、主人公の妄想でこれは現実ではないな?という覚めた視点にならず、ファンタジー溢れる楽しい気持ちと力強いドライブ感でストーリーにのめり込んでしまうんです。

PUPPETS - daniels from DANIELS on Vimeo.

これは監督のダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シェイナート二人のユニット)のショートムービーですが、もともとこういう世界観を映像にするような人たちです。このむちゃくちゃな説得力はそのうちマーベルかDC作品の監督に抜擢されかねない強烈さ。「スゴい股間でものを破壊しまくるMV」とかもスゲー良い。(DJ Snake, Lil Jon - Turn Down for What - YouTube

監督ダニエルズの映像にはそういう不思議で強烈な牽引力があります。ありえないことをありえないままに存在させるための説得力とでも言えばいいのでしょうか。たとえオナラを動力に海をジェットスキーしようと、死後硬直した腕を斧のように振り回し木を切り倒そうと、発想自体はもう完全小学生な世界なのに時にパワフルに、時にしっとりと、しかも自信たっぷりにやり切ります。その堂々とした映像に抗う気になんて全くなれないし、むしろ清々しさすら感じます。スパイク・ジョーンズ監督やミシェル・ゴンドリー監督が引き合いに出されるのもよくわかります。

ポール・ダノのキャスティングする時の監督の口説き文句は「最初のオナラで笑わせて、最後のオナラで泣かせる映画を撮りたい!」だったらしいです。

ポール・ダノといえば、『プリズナーズ』や『それでも夜は明ける』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などでの振り切れた怪演が本当に大好きで、もし自分で映画を撮ることになったら必ずキャスティングしたい唯一の役者、ポール・ダノが殴られるための映画を撮りたいと思うほど好きなんですが、今回のポール・ダノも最高に良く、素晴らしい奇声だけでなくナイーブな魅力はたっぷりで、かつ忘れた頃にちょっとヤバイところを出してくるあたり、本当に惚れ惚れします。

一方、死体になったダニエル・ラドクリフこそ強烈な決め手で、彼に説得力がないとこのファンタジーが成立しないし、ポール・ダノを突き放さず取り込みすぎず、現実と虚構の境界線を溶かしてしまう「死体」の怪演で一気にファンになってしまいました。

しかしこの映画の肝は、なによりグッと心を掴んで離さず、見事に感情を揺さぶられるストーリーにあります。
故郷への道のりでは、物理的な困難をメニーの様々な能力を借りて二人で乗り越えながら、同時にハンクは心にずっと抱えていた自分の葛藤をもメニーと一緒にひとつずつ乗り越えて行くことにもなります。
メニーが道中尋ねてくる疑問はシンプルながら多岐にわたり、その全てがまさにハンクが自分自身の人生に感じている疑問の投影で、メニーの心にうまれる欲求はまさにハンクの欲求そのものの代理でありもします。コンプレックス、対人関係、恋すること、父親との距離、亡き母親への想い、生きようとすること。
たとえばメニーが恋というものを知りたがるとハンクは相手役を買って出ます。そこでハンクは自分が憧れている女性役をもやることになり、友であるメニーのことを考え、憧れの女性の思いを想像て代弁し、その中でずっと押し殺していた自分の本当の気持ちにすら触れることとなります。

いったいなんだこの展開は?

オナラが止まらない死体でジェットスキーをやり、口から噴射される水を飲み、深い森の中をひたすら死体を抱えながら進み、道に迷ったら勃起した股間がコンパスがわりに道を示すそんなトンデモ映画なのに!主人公みずから死体をパペットのようにあやつり、人形劇さながらにデートシーンを演出し、必要な小道具すら木の枝や捨てられたゴミで作り上げてまでやるデートごっこ、しかしその実、こころの中で起こっていることは、孤独でトラウマを抱えそこから抜け出せないハンクがメリーと過ごすうちにそこに今まで抱えていた自分の葛藤や他者との関係を投影し見つめ直し乗り越えて行く道を見つけて行くストーリーなんです。まさに足場の最悪な山道のようなメチャクチャな設定の上に、ここまでしっかりとした主人公の成長譚が何の違和感もなく乗っかり、実に力強く進んで行く。本当にマジックや奇跡を見ているような気持ちになります。
しかも、それを踏まえて迎えるラストにはさらに驚くべき展開とふさわしいカタルシスが待ち構えています。いったいなんなんだこの映画は!

 

今年もたくさん素晴らしい映画がすでに上映されていますが、この映画は間違いなくその上位に食い込む映画です。私はもうすでに2回目が観たいので、劇場公開したらもう一度観に行きます。

Swiss Army Man (Original Motion Picture Soundtrack)

Swiss Army Man (Original Motion Picture Soundtrack)

  • Andy Hull & Robert McDowell
  • サウンドトラック
  • ¥1650

sam-movie.jp

 

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